[自作小説] 森の秘密と二人の少女「緑籠館の晩餐」(5) | Isanan の駄文ブログ

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「あー、もう、何なのよ、あいつはーっ! むーかーつーくーっ!」

 席に戻っても怒りが治まらない様子のレナに、タボンが弱り切った様子で声をかけた。

「いや、これは重ね重ね申し訳ありません。我等だけでは連続する怪事件の解決は困難と
判断して、あのような連中を雇ってみたのですが、どうも傭兵というのは柄の良くない性
質の輩が多いようでして。御怒りの程はごもっともですが、どうかここは私に免じてご容
赦ください」

「あ、いえそんな、別にタボンさんに謝ってもらうようなことではないですよ。それに怒っ
てなんか、ぜーんぜんいませんし。ぐぐっ!」

 指でフォークを捻じ曲げながらも、何とかレナは怒りを押し殺したようだ。だが今度は、
シャリーンがタボンに向かい声を挙げた。強い非難の調子が篭もっていた。

「ねえ、お父様、本気ですの? 里の者はまだしも、あんな人達を森に入れるなんて! 
どうか今からでも、考え直していただけませんか?」

 これを聞くとタボンは顔をしかめて唸るようなため息を一つ漏らした、だが無理して普
段の表情に戻ると、気を取り直したようにシャリーンを説き伏せ始めた。

「やれやれ、良いかね、シャリーン? わしとて、したくて許可したわけではないのだ。
だが事ここに至っては、こうする他に仕様があるまい。あの森が怪しいことにもはや疑い
の余地は無いし、敵の正体がわからぬ以上こちらも丸腰で対抗するわけにもいかぬ。とな
れば、ああいう連中の力を借りるしかないだろうが」

「でも怪しくはあっても、まだそうと決まったわけではありません。それにあの人達が森
に入れば、どのような振る舞いに出るかわかったものでないですわ! 私は、絶対に反対
です。緑篭館の主は、森を守るのがその務めではありませんか。それを、自ら森を荒らす
ようなことに許しを出すなど……」

 タボンの表情がまた険しくなり、声も厳しさを増した。

「また、その話か! 森ではなく、庄を守ること、領民の安全を保つこと。そこに、領主
の務めの第一があるのだ。これだけ消息を絶つ者が出て、今まさにそれが脅かされておる
というのに、まさか何もせぬまま黙って見過ごせとでも言う気なのか? シャリーン、森
に肩入れするのは勝手だ。別に古いしきたりを軽んじようとも思わぬ。だがそれにしても、
おまえは何かと森、森と、少し言い過ぎるのではないかね?」

「そんな……」

 タボンとシャリーンの言い合いが続くそのとき、アシュウィンが口を開いた。

「そういえばシャリーンさんは、今日も森に入ってたみたいですね」

 この言葉に場が静まり、シャリーンは恨みがましい視線をアシュウィンに向けた。次の
瞬間、激昂したタボンの怒鳴り声が響いた。

「な、何だとっ! おまえ、また森に行っていたのか? 普段ならいざ知らず、こんなと
きに何を考えておるのだ! 誰も森に近付くなと令を出して、領民一致で事態の解決に当
たろうというこのときに、領主の娘がそれでは示しが付かんだろうがっ。全くその年にも
なって、自覚というものが無いのか!」

 なおも続く叱責の言葉を、シャリーンは唇を噛み締めしばらく俯いて耐えていたが、や
おら席を蹴って立ち上がると、そのまま駆け出すように部屋を出て行ってしまった。タボ
ンは我に返り、息を落ち着けるとぎこちない作り笑いを浮かべた。

「これは……、つい興奮して、お客様に大変お見苦しいところをお見せしてしまいました。
何度も御不快な思いをさせて、真にお赦し願いたい。……いやしかし、どうもあの年頃に
なると、娘の考えることというのは、男親にはさっぱりわからないものでしてな……」

 そして自分も明朝の用意があるので失礼、と言い残し、タボンも部屋を後にした。二人
だけ部屋に残されると、レナはアシュウィンに思い切り肘打ちを食らわした。



(続く)