[自作小説] 森の秘密と二人の少女「緑籠館の晩餐」(1) | Isanan の駄文ブログ

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 歩き出してすぐに、二人は森の端へと到達した。そこでは長く続く崖が森を断ち切り、森
側は高台を形成していた。アシュウィンの言った通り煙の筋と集落らしきものの影をそこか
ら見晴らすこともできた。崖には階段が造られていて下に降りるのに苦労は無かった。崖の
下側も森には変わりなかったのだが、そこは今までと違いところどころ果樹園や畑になった、
人の手の入った森だった。

 アシュウィンとレナは何とか完全に暗くなる前にその集落へたどり着いた。冊と塀が端を
崖に接して集落を囲むように伸びている。出入りの門が構えられていたが、扉は閉められて
いた。二人はその前に立った。

「ようやく着いたわね。一時はどうなることかと思ったわ」

「……僕は、どうも嫌な予感がします」

「何か言った? あの、すみません。旅の者ですが、中に入れてほしいので門を開けてもら
えませんか?」

 覗き窓が開いて、門番らしき男が顔を出した。

「駄目だ! 日が暮れたら、何人も入れてはならないとのお達しだ」

 この言葉に二人は驚き、そして息巻いた。

「な、何ですって? ちょっと、あたし達がどれだけ大変な思いをしてここまで来たと思っ
てるのよ。訳の分からないことを言ってないで開けなさい!」

「そうです。こっちは野宿かどうかで命が懸かってるんですから。お願い、僕を見殺しにし
ないで!」

「訳のわからんことを言ってるのはお前らだ! ともかく領主様の命令で、日没後は里に外
から人を入れるなとのことだ。お前らもそこの連中みたいに、どこかでおとなしくしてろ!」

 門番はそう怒鳴って手を差し伸ばした。その示す先には塀に寄りかかって座り込む二つの
人影があった。

「おや?」

「あ、あなた達!」

 アシュウィンとレナは二人に見覚えがあった。相手も同じだ。

「ん? ああ、お前らは……!」

 一人は女で、もう一人は大男だった。彼等が以前に出会ったのは、ラーナティアで、それ
も魔封洞の中でのことだ。その二人は闇の勢力に属する、半人半獣の戦士達だった。


 女戦士は尖った耳を頭巾で、大男も覆面をすっぽりと被りその狼のような顔を隠していた。
二人とも以前と同じように武装していたが今は旅装束だ。かつてアシュウィンとレナは闇の
勢力の根城となっていた魔封洞で、この二人に捕まったり命を助けられたりしたことがあっ
た。そしてその後魔封洞はアシュウィンとレナの活躍(?)もあって、内部の闇の勢力の軍
団もろともに壊滅したのだった。

「……ええと、お二人とも無事な様子で何よりで」

「ほ、本当に、良かったわね、会えて嬉しいわ」

 と言ってアシュウィンとレナはぎこちない笑顔を作った。女戦士は怒鳴り返した。

「なんだとーっ! お前らのせいで、こっちがどれだけ大変な目にあったと思ってるんだ?
 魔封洞での借りを……」

 興奮する女戦士を大男があわてて口をふさいで制止した。

「まあ、姐御、落ち着いて。今、ここでその話はまずいって」

 門番がその様子を何如にも不審そうに見つめながら

「何だ、お前達仲間か? それならちょうど良い。四人仲良く野宿してれば良いじゃないか」

と言って、姐御と呼ばれた女戦士はさらに興奮した。

「誰が仲間だ! だいたいあたし達は、ここの領主が出した傭兵募集の張り紙を見て来てやっ
たんだ。それなのに門前払いとはどう言うことだ?」

 しかし門番は耳を貸そうとしない。レナも続いて声をあげた。

「こっちだって、もう歩き続けてくたくたなんだから。一日中おかしな森の中をさまよった
身にもなってよ!」

「森? 森から来ただとー?」

 レナの言葉に、それまで興味無さそうに聞き流していた門番の様子が変わった。

「それなら、なおさら入れてはやれん! 今すぐここから立ち去って、二度と戻って来るな。
森から来る者は昼だろうが夜だろうが追い返せと、そういうお達しだ。さあ、行け!」

 この門番の劍幕に、レナは応戦して扉を蹴破ろうとした。そのときアシュウィンとレナの
後から、澄んだ声が申しわけ無さそうに響いた。

「……あの、すると私も、やっぱり入れないのでしょうか?」

 振り向くとそこの暗がりに、少女が一人立っていた。


(続く)