[自作小説] 森の秘密と二人の少女「森の奇妙な一夜」(4) | Isanan の駄文ブログ

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 翌朝、朝食もご馳走になり少し日も高くなってから、アシュウィンとレナは出発すること
となった。穏やかな陽光が、暗い森の中で小屋の周りだけを照らし出していた。

「それじゃあ、ユマさんもお元気で。お陰で昨晩は助かりました」

「本当にありがとう。何もお礼できることが無くて悪いのだけど……」

「気になさらないで下さい。困った時はお互い様ですから。私も、お二人と会話ができて久
しぶりに楽しい時を過ごすことができました」

 三人はそれぞれに別れを惜しんだ。そしてアシュウィンとレナは一夜を過ごした小屋を離
れ再び森の中へと入り進んだのだが、最後にユマの述べた言葉はやはり奇妙なものであった。

「そのまま森の中を進んでいただければ、自然とここから一番近い集落へと着くでしょう。
おそらく日の暮れるまでには。ただ、森から来たことが知れれば今はあまり歓迎されないか
もしれません……。ああ、それと! 森の中ではみだりに木を傷つけたり、まして火を焚い
たりはしないでください。絶対にです。……あと、私はできればお二人がなるべく早く、こ
の森から出て離れられたらと、そう願っています……」


 森の様子は昨日と変わり無かった。木々は深く地形は起伏が激しくて、その中は暗く見通
しが効かなかった。少し行くと、もう小屋のあった気配すら感じられなくなった。しばらく
歩き続けてから、アシュウィンが呟いた。

「……不思議だな」

「本当。良い子だったけど、不思議な少女だったわね」

「いえ、それもそうですが、僕が言いたいのはこの森のことです。レナさんは、昨晩の嵐の
ようなざわめきを聞きませんでしたか?」

 アシュウィンの問いかけにレナは首を横に振った。

「全然。ぐっすり眠ってたから何も気付かなかったわ」

「結構うるさかったと思うんですけど。……野宿どころか寝ている間に外にほっぽり出され
ても、レナさん別に平気なんじゃないんですか?」

 レナは右拳を脇の下に引き左足を前にして構えると、反動を付けてその拳をアシュウィン
に叩き付けた。アシュウィンは吹き飛ばされて倒れた。

「うるさいのはあんたの口よっ! そんなことを言うためにあたしに質問したの?」

「な、何もそこまでしなくても……。まあともかく、嵐があったにしては森にその痕跡が無
いんですよ。不思議でしょう?」

「言われてみればそうね。雨に濡れても、枝が折れてもいないようだし……」

 辺りを見回しながらレナが言った。アシュウィンが続けた。

「それに、一度歩いて来たはずの場所の風景が、何だか前と変わっている気がするんです。
他にも、獣の気配も感じないのにずっと何かに見張られているような……」

 レナは後ろを振り返った。暗く繁った木々が折り重なるように続いて、視界の果てまで覆
い尽くしていた。確かにたった今まで通っていたにもかかわらず、そこに自分の来た道筋を
たどるのは難しかった。歪み捩れた巨木の群れが取り囲んで、二人を監視しているようにも
思えた。レナはぶるっと体を震わすと、アシュウィンの脛を蹴り飛ばして足早に歩き出した。

「……今、何故、僕は蹴られたのですか?」

「あんたが怖がらすようなこと言うからよ! ほら、ぐずぐずしないで。あの子の言ってい
た通り、こんな森からさっさと抜け出てしまった方が良いわ!」


(続く)