[自作小説] 森の秘密と二人の少女「森の奇妙な一夜」(2) | Isanan の駄文ブログ

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 しばらく行くと薮は抜けたが、森は深まるばかりだった。日が落ちつつあることもあって
辺りの暗さもまた増していた。しかし風は止むことなく進路を示し続けた。それに従い起伏
を乗り越え進んでいると、出し抜けにアシュウィンとレナは拓けた場所へとたどり着いた。
その一画だけは木が生えておらず中心には丸太で造られた小屋が建っている。もう夕暮れが
押し迫ろうとしていた。

「偉いわ、スサク! よく見つけたわね」

「でも不思議だな、こんな奥深くに小屋があるなんて。誰が住んでいるんでしょう?」

「誰もいなきゃ好都合。入り口を破って占拠するまでよ!」

 その声を聞きつけてか小屋の扉が少し開き、中からアシュウィンとレナの様子を窺う人影
が見えた。

「あら、人がいたのね。あの、すみません。旅の者ですが道に迷ってしまい困っています。
一晩泊めていただくわけにはいかないでしょうか?」

「おとなしく従わないと、この人にどんな目に会わされるか分かったもんじゃ無いですよ」

「ちょっと、何を人聞きの悪いこと言ってるのよ!」

「うわー! お願いです、人助けだと思って泊めてください。じゃないと僕が殺され……」

 レナはアシュウィンにつかみかかり締め上げた。そのとき小屋の扉が完全に開いた。そこ
に立っていたのは、一人の少女だった。少女は驚きと困惑の表情を浮かべて二人を見つめた。

 ***

「……こんなあり合わせの急ごしらえの物しかできなくて、お二人のお口に合うか分かりま
せんけど……」

「わーい。いただきまーす」

「悪いわね。宿ばかりか食事までご馳走になっちゃって」

それは山菜やキノコの入ったスープだった。旺盛な食欲を見せるアシュウィンとレナの姿を
見て、少女は少し微笑んだ。

 二人の頼みを少女は、――年の頃はアシュウィン達よりも少し下だろう、ユマと名乗った
――、快く了承してくれた。別にアシュウィンの脅迫が効いたわけではなく、見知らぬ訪問
者を歓迎してくれている様子だった。ただし泊めるために少女が出した条件は、いささか奇
妙なものだった。

「夜、何があっても、決して気になさらないでください。そして外は覗かないこと」

アシュウィンとレナがこの条件を飲まない理由も無かった。

「ねえ、ユマはこの小屋で一人で生活しているの?」

 食事も終わった頃になって、レナが尋ねた。小屋には他に人の気配は無かった。こんな人
里離れた森の奥深くに少女が一人でいるのは、確かに何とも不思議だった。だがその質問に
対してユマは困ったように下を向いて黙り込んでしまった。

「あ、いや良いのよ、別に。人にはそれぞれ事情があるでしょうし……」

 レナは慌てて取り消した。自身もラーナティアの姫君だと言う、自分の身分を隠しての旅
だ。あまり人のことを詮索する立場でも無かった。

「あの、床の仕度もできましたし、皆さんお疲れでしょうから今日はもうお休みになられた
ら……」

「そうね、そうさせてもらうわ。何から何まで本当に悪いわね」

実際にかなり疲れていたので、結局その日はそれで終わりと言うことになった。


続く