[自作小説] 森の秘密と二人の少女「緑籠館の晩餐」(7) | Isanan の駄文ブログ

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 レナの部屋にノックの音が響き、ドアの向こうからアシュウィンの声がした。

「レナさん、入って良いですか?」

「良いわよ」

 戸を開けてアシュウィンが部屋に入ろうとすると、その顔目がけてぬいぐるみが猛然と
飛んできた。

「わわっ! 何するんですか?」

「もう、あんたのせいで、さっきは気まずくなっちゃったじゃないのっ! 何であんなこ
と言うのよ?」

「いや、黙ったきりじゃ、失礼かなと思って……」

「それなら、一生黙ってなさいっ!」

 怒るレナに杖を持たない右手でぬいぐるみを拾い渡すと、アシュウィンは横を通り過ぎ、
窓から外を覗いた。

「窓には鉄格子がかかってて、壁は手がかりも無く返し付き。確かに、危険はなさそうで
すね」

「そう。外はどう? 何か見えるの?」

 レナは立ち上がって、自分も窓のそばに行こうとした。

「いやー、暗闇の中に、あの森がどこまでも広がるばかりです。黒々としてこの館を取り
囲んで、中から歩いて見た以上に不気味な感じがします。レナさんも見ます?」

「良いわよ! カーテン閉めといて」

 きびすを返してレナは戻り、ベッドに腰掛けた。膝を立てて肘を置き、頬杖をつく。

「そんなことより、結局何もわからずじまいだったわね。どう、アッシュ? あんた、少
しくらい謎は解けたの?」

「謎? 何の謎、どの謎ですか?」

「うー、いろいろよ! まず、この地で続発する怪事件の犯人は何者なのか? そして、
それはあたし達を森で襲ったあの昆虫人間と関係あるのか? だとしたらその目的は?」

「ふーむ……」

「それに、まだあのとき、連中が突然退いた理由や、あの聞こえた音の正体も、不明のま
まよね」

「……そうですねぇ」

「でも、あたしが何より気になるのは、あの二人のこと。どういうことなの? 領主の娘
のシャリーンと、森の中で会ったユマが、同じ顔をしてるなんて! 二人の間には、いっ
たい……」

 レナは急に言葉を止めた。アシュウィンが口元に指を立てて、静かにするよう促してい
た。少しして、部屋にまたノックの音が響いた。

「あの、すみません。……入っても、よろしいですか?」

 そのか細い声は、シャリーンのものだった。



(続く)