[自作小説] ナメクジなカタツムリ | Isanan の駄文ブログ

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 或るところに、とても奇妙なナメクジがいた。彼(両性具有なのであるいは彼女)の背中にはナメクジにも関わらず、渦巻き模様のカタツムリの殻が乗っていたのだ。その背の上の重荷は絶え間無く彼(彼女)を苦しめていた。その重みは歩みを非道く遅いものとし、その大きさは進む道を決める自由を狭めた。彼(彼女)が長い柄の先にある目を伸ばしたとき、その視界のほとんどは背中の殻に塞がれていた。自分を押し潰そうかとするようなこの異物から、恨みがましい目を外すことができなかったのだ。

 他のナメクジ達は足取り速く身も軽く、高所でも閉所でも自分達の好きに進んで行った。彼(彼女)は何時も一人取り残された。如何に急いでも彼等に追い着きはせず、如何にもがいても彼等の所に辿り着くことが無かった。重荷を負った彼(彼女)には、其処に到達する望みは決して無いのだと知った。

 今日も彼(彼女)が目を上げると、仲間の姿は何処にも無かった。辺りには陽射しが降り注ぎ、きっとそれを避けて快適な湿った土の中にでも去ったのだろう。ただ一匹のカタツムリが、殻を日傘と勘違いしたか日を浴びながら葉の上にいた。足元を食(は)みつつ、緩慢に這い進んでいる。彼(彼女)は自身の殻に潜った。其処は暗くて、中では本当に孤独だった。そして己に向けて同じ問いを繰り返し続けるのだ。何故、自分はナメクジなのかと。答えの出ぬまま、何時までも、何度でも。